「問屋(とんや)」と聞いて、仕事の中身まで思い浮かぶ方は、あまり多くないと思います。就職活動中の学生さんなら、なおさらかもしれません。

メーカーがつくり、お店が売る。そのあいだで、問屋は何をしているのか。「中間業者」の一言でまとめられがちな仕事ですが、実際には、商品が釣り人の手元に届くまでの多くの段取りを引き受けています。

この記事では、釣具の問屋を営む立場から、その中身をできるだけ具体的にご紹介します。

問屋とは何をしている会社か

問屋とは、メーカーから商品を仕入れ、販売店へ届ける流通業です。

高橋 一彰
江戸時代から続く、日本ならではの商習慣です。かつては問屋を通さないと市場に品物を並べられない、という時代もあったそうです。

商品が消費者に届くまでの3つのルート

現代において、商品が消費者の手に渡るルートは、大きく3つに分けられます。
現代において、商品が消費者の手に渡るルートは、大きく3つに分けられます。

どのルートにもそれぞれの良さがあり、商品や事業の規模に応じて使い分けられています。そのなかで①の問屋経由が選ばれるのは、このルートでなければ実現しにくいことがあるからです。

ここからは、問屋が引き受けている仕事を、信用・在庫・物流・情報と調整の4つの機能に分けてご紹介します。

① 信用の機能 ― 取引をまとめて引き受ける

商売の基本は信用です。

企業間の取引では、商品を先に納め、代金は月末締めなどで後日まとめて受け取る「掛け払い」が一般的です。請求の締め日、支払いの条件や期限、振込先。こうした取り決めは取引先ごとに異なり、その管理には手間も、一定のリスクも伴います。

問屋は、この与信管理と代金回収をまとめて引き受けています。

  • メーカー様にとって:問屋とのやりとりだけで、全国の販売店様に商品を届けられる

  • 販売店様にとって:多くのメーカーの商品を、ひとつの窓口・ひとつの請求書で仕入れられる

「取引の数」という視点

弊社は現在、300社を超えるメーカー様から商品を仕入れ、全国1,000店を超える販売店様へ供給しています。

仮にこれをすべて直接の取引で結ぼうとすると、メーカー様と販売店様のあいだに 300 × 1,000 = 30万通り の取引関係が生まれます。そのひとつひとつに、口座開設、与信判断、請求、入金確認が必要になる計算です。

問屋が間に入ると、この数は 300 + 1,000 = 1,300 になります。

もちろん現実はこれほど単純ではありません。それでも、間にひとつ結び目を置くことで、全体の手間が小さくなる場合がある。この掛け算と足し算の違いは、問屋の役割をよく表していると思います。

② 在庫の機能 ― 買い取って、必要な分だけ届ける

問屋は、商品を買い取って在庫として持ちます。手数料を受け取って取り次ぐだけの仲介業との、大きな違いです。

  • メーカー様にとって:問屋への納品で売上が立ち、次の生産に資金を回しやすくなる

  • 販売店様にとって:生産ロットにしばられず、必要な数を必要なタイミングで仕入れられる

在庫を持つことで、メーカー様と販売店様、双方の資金と時間の負担をやわらげる。それが在庫の機能です。

限られた商品を、どう届けるか

在庫の仕事には、もうひとつあまり知られていない側面があります。数に限りがある商品を、どう行き渡らせるかを考える仕事です。

釣具の世界には、少量生産のハンドメイドルアーや、発売直後に注文が集中する人気商品がたくさんあります。100個しかつくれない商品に、1,000個の注文が届く。決して珍しいことではありません。

こうしたとき、私たちはメーカー様の販売方針を尊重しながら、これまでのお取引や地域のバランスを踏まえて、できるだけ多くの売り場に商品が届くよう調整しています。

高橋 一彰
すべてのご希望にお応えできないのは、正直とても心苦しいところです。「次もこの商品を一緒に売っていきたい」と思っていただける配分を、毎回悩みながら考えています。

③ 物流の機能 ― 1個から、1箱にまとめて

販売店様からのご注文は、たとえばこんな形で届きます。

A社のルアーを3個、B社のラインを1個、C社の針を2袋、D社のロッドを1本

問屋はこれを1つの箱にまとめてお届けします。問屋がなければ、販売店様は4社それぞれに発注し、4つの荷物を受け取り、4通の請求書を処理することになります。

1個の注文に応えられる理由

ここで生きてくるのが、②の在庫です。先に買い取って倉庫に置いてあるからこそ、1個から出荷できます(メーカー様のご意向で、ロットや条件を設けている商品もあります)。

お店の1週間を思い浮かべてみてください。

新製品が入荷して棚に並ぶ。週末に思わぬ釣果情報が出て、特定のカラーだけがよく売れる。月曜の朝、バイヤーさんは「あの色とこの色を、10個ずつでいいからすぐ欲しい」と考えます。

このタイミングに間に合うかどうかで、その商品がそのお店で売れ続けるかどうかが変わります。

メーカー様にとって、小口の注文に1件ずつ応えるのは送料の面で負担が大きく、最低ロットや送料の条件を設けるのは自然なことです。一方、店頭の売れ行きは週単位で動きます。たくさんのメーカーの在庫が同じ倉庫にあるからこそ、問屋は小さな注文をまとめて1件の配送にできます。

高橋 一彰
売れているときこそ、切らさないことがいちばん大事です。「その時、その場」に間に合わせることが、私たちの仕事です。

物流費が上がるほど、「まとめる」価値は上がる

いま、この機能の意味が以前より大きくなっています。

燃料費や人件費の上昇に加え、2024年4月からはトラックドライバーの時間外労働に上限規制が適用されました。運賃の値上げや送料無料ラインの引き上げなど、物流を取り巻く環境は大きく変わっています。

メーカー様にとっては、1,000店へ個別に送るより、問屋の倉庫へまとめて納品するほうが輸送の回数を抑えられます。販売店様にとっても、10社分の荷物を10個受け取るより、1個にまとまって届くほうが送料も検品の手間も減ります。

間にひとつ集約点を置くことで、全体の輸送回数とコストが減る。物流費が上がるほど、この意味は大きくなっていきます。

高橋 一彰
輸送コストが少なくなることはエコ(資源保護)にもつながります。

④ 情報と調整の機能 ― 点を線にする

たくさんの商品を扱うということは、業界全体の動きが見えるということでもあります。

どの地域で何が動いているか。どんな新製品が出てくるか。その情報を販売店様にお届けし、メーカー様には現場の声をお返しする。これも問屋の大切な役割です。

地域を知る

弊社では、営業担当を地域ごとに配置しています。

釣りは、地域性がとても強い遊びです。潮も、地形も、季節の進み方も違えば、売れる道具も変わります。そこに、昔から根づいている釣り方や、常連の皆さんのクチコミといった土地ごとの文化が重なります。

地域担当は、その土地で何が強く、どんな商品が馴染むかを、時間をかけて理解していきます。カタログを持って回るのではなく、その地域の釣りを知ったうえで話ができること。それが提案の土台になります。

点の情報が、線になるまで

問屋という組織のおもしろさは、ここからです。各地の担当が持ち帰った情報は、社内で交わります。

「あのメーカーの新製品が動き出した」「うちの地域では定番品がクチコミで再燃している」「別ジャンルの道具が転用されて注目されている」

ひとつひとつは、ただの点です。けれど複数の地域と、300社を超えるメーカー様の情報が重なると、次に来そうなものの輪郭が見えてきます。

それを踏まえて、はじめて「このお店に、この商品を、この量で」という提案ができます。売れ筋をそのまま伝えるのではなく、そのお店にとって意味のある形に置き換えて届ける。目指しているのは、目先の売上ではなく、販売店様が長く商売を続けられる状態を後ろから支えることです。

あいだに立つ

もうひとつ、あまり語られない役割があります。メーカー様と販売店様のあいだに立って、橋渡しをすることです。

商売である以上、納期のずれや数量の不足、条件の行き違いは起こります。そうしたとき、双方の事情を丁寧にお伝えし、代わりの方法を一緒に考える。地味な仕事ですが、長く続く商売にとっては欠かせないものだと考えています。

高橋 一彰
どちらの言い分にも理由がある、という場面がほとんどです。白黒をつけるより、「来シーズンも気持ちよくご一緒できる形」を探す。この仕事のやりがいのひとつです。

釣具業界で、問屋が今も活躍している理由

業界によっては、問屋の存在感が小さくなってきているのも事実です。ただしそれは、4つの機能が不要になったわけではありません。規模の大きな企業が、その機能を自社の中で担うようになった、というのが実態に近いと思います。

釣具業界には、少し違う事情があります。

ハンドメイドの工房から、インディーズ、中小、大手まで、実にさまざまなメーカー・ブランドがあります。そして釣り人のニーズも、魚種・釣り方・地域・季節によって、無数に枝分かれしていきます。

同じアジを釣るにも、堤防からのサビキ釣りと、ボートからのライトゲームでは、必要な道具がまったく違います。しかも、その流行は毎年動きます。

膨大な商品と、無数のニーズ。その組み合わせを一社だけで処理するのは、店舗でもECサイトでも簡単ではありません。

だからこそ、特定のメーカーや販売店に偏らず、幅広いブランドを幅広い売り場へ届けられる存在が求められます。それが、この業界で問屋が今も必要とされている理由だと考えています。

もちろん、直取引や直販のほうが合っている商品や場面もあります。ルートはひとつではなく、商品や事業の規模に応じて選ばれるものです。そのなかで問屋は、「多様な商品を、多様な売り場へ」をいちばん得意とする選択肢だと思っています。

高橋 一彰
流行り廃りが激しく、魚の釣れ具合や景気にも左右されやすい業界です。だからこそ、安定した商売を長く続けられる形をつくることが大切だと考えています。

これからの問屋に求められること

物価や人件費、原材料費の上昇を受けて、配送のまとめ方や価格の見直しなど、これまでのやり方を変える場面が増えています。「毎日、1個からでも届ける」を、これまでと同じ頻度とコストで続けるのは難しくなりつつあります。

ただ、これは問屋の役割が小さくなる話ではないと考えています。送料が上がるほど、まとめる価値は上がります。人手が足りなくなるほど、窓口をひとつにまとめる意味は増します。商品と情報が増えるほど、目利きをして届ける役割は必要とされます。

問われているのは、その機能をどういう形で提供し続けるかです。

  • 配送の頻度をどう設計し直すか

  • 1個から届ける小回りと、まとめて運ぶ効率をどう両立させるか

  • 営業が現場で集めてきた地域の知見を、どう組織の財産として共有していくか

  • データに任せられる部分と、人でなければ担えない部分をどう見極めるか

その答えのひとつとして、弊社では販売店様が在庫をその場で確認して発注できるシステム「F-TEN(エフテン)」の準備を進めています。

問屋の仕事は、商品にも、人にも、地域にも、データにも関わります。釣りが好きな方にとって、これほど業界全体を広く見渡せる場所は、なかなかないと思います。

総括

ここまで読んでくださり、ありがとうございます。いかがでしたでしょうか。

信用を担い、在庫を持ち、1個の荷物を届け、メーカー様と販売店様のあいだをつなぐ。この商習慣がこれからどんな形に変わっていくのか、明確な答えはまだありません。それでも、その積み重ねの先に、末永く皆さまの釣りを支える道があると信じています。

記事をご覧になって弊社に興味を持っていただけた方は、ぜひ採用ページもご覧ください。

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WRITTEN BY
高橋 一彰Executive Director

府中屋の中の人。育児奮闘中につき、ライフスタイルにあわせた釣りを模索中。趣味はアクアリウムと観葉植物です🌵